タイトルの前半部分に僕なりに回答するならば、子どもは日常生活の中で少なからず成長します。
昨日できなかったことが、いつの間にかできるようになっていたり、話せる言葉が少しずつ増えていったり。
障がいや発達の特性がある・ないにかかわらず、そのスピードに違いはあっても、子どもは日々成長していきます。
では、子どもが自然に成長していくのであれば、発達特性のあるお子さんにとって言語訓練は本当に必要なのでしょうか?
実はこれは、言語聴覚士として子どもたちと関わっている私自身も、ときどき考えることがあります。
「この成長は、自分が関わったからなのか?」
長く子どもと関わっていると、できることが少しずつ増えていきます。
そんな姿を見るのはとても嬉しいのですが、一方で、
「これは、自分が関わったことで起きた変化なのだろうか?」
「それとも、年齢や日常の経験を重ねたことで自然にできるようになったのだろうか?」
と考えることがあります。
子どもは、何もしなくてもある程度は成長していきます。
だからこそ、数か月、半年、1年という長い期間で見た変化について、「これは言語訓練の成果です」と言い切るのは、実は簡単なことではありません。
でも一方で、
「これは、明らかに関わり方を変えたことで起きた変化だな」
と感じることもあります。
関わり方を変えると、子どもの行動が変わる
例えば、嫌なことがあると物を投げてしまう子がいたとします。
そこで、「嫌」という気持ちを別の方法で伝えられるように練習します。
すると、それまで物を投げて表現していた子が、「嫌」と伝えられるようになり、落ち着いてやり取りができるようになることがあります。
ほかにも、新しい活動になかなか参加できない子に、まず隣でやって見せたり、写真を使って事前に予告したりすることで、活動に参加しやすくなることがあります。
こうした変化が、関わり方を変えた直後から現れたり、同じような場面で繰り返し見られたりすると、
「この子の力が自然に伸びるのを待っていただけではなく、こちらの関わりによって新しい力を身につけることができたんだ」
という手応えがあります。
私は、こうした変化を考えるときに、
「目的」「手段」「結果」
を大切にしています。
何をできるようにしたいのか。
そのために、どんな方法で関わったのか。
そして、その結果として何が変わったのか。
この3つを見ながら、関わり方がその子に合っていたのかを考えています。
「成長」と「学習」は少し違う
今回この記事を書くにあたって、私自身、改めて考えたことがありました。
それは、「成長」と「学習」は違うということです。
子ども自身の成熟などによって、時間の経過とともに少しずつ育っていく部分が「成長」だとすれば、経験したり、教えてもらったり、練習したりすることで、新しいことを身につけていくのが「学習」です。
そして、この2つは別々に存在しているわけではないのだと思います。
学習することで成長が促される。
成長して新しい力が身につくことで、今まで難しかったことを学習できるようになる。
そして、その学習がまた次の成長につながっていく。
そんな循環があるのではないでしょうか。
だから言語訓練は、「自然に成長するまで待つ」こととは少し違います。
その子が今持っている力を見ながら、次の一歩につながる経験を意図的につくっていくことに、大きな意味があるのだと思っています。
同じ「言葉が出ない」であっても必要な支援は違う
では、その「次の一歩」はどうやって決めるのでしょうか。
ここが、言語訓練の難しいところであり、専門家が関わる意味の一つだと考えています。
例えば、一口に「まだ言葉が出ていない」といっても、子どもの状態は一人ひとり違います。
人とのやり取りはどのくらいできているのか。
言葉の意味をどのくらい理解しているのか。
身振りは使えるのか。
自分から何かを伝えようとする力は育っているのか。
こうしたさまざまな側面を見ていくと、
「この子は、話し言葉を増やすことに取り組んでいこう」
という子もいれば、
「その前に、人とやり取りする経験を増やそう」
という子もいます。
あるいは、
「まずは身振りをきっかけにして、“伝わる楽しさ”を経験してもらおう」
という子もいます。
つまり、同じ「言葉が出ない」という悩みでも、必要な支援が同じとは限らないのです。
評価して、考えて、試して、また評価する
私は最初にその子と関わるとき、これまでの経験や保護者の方からのお話、子どもの様子などから、
「もしかしたら、この方法が合うかもしれない」
と、まず仮説を立てます。
必要に応じて検査なども使いながら、その子の力を多面的に評価します。
そして実際にやってみる。
うまくいけば、その方法をさらに別の場面にも広げてみる。
うまくいかなければ、「なぜだろう?」と考えて、別の方法を試してみる。
評価 → 仮説 → 実践 → 再評価。
言語訓練では、このサイクルを何度も繰り返しています。
「この方法をやれば、どんな子でも言葉が伸びます」という一つの正解があるわけではありません。
その子を見ながら、その子に合った方法を探し続ける。
そして、そのための「引き出し」をたくさん持っていること。
そこに専門家が関わる意味があるのだと思います。
言語訓練は、子どもの成長をどう変えるのか
子どもは、言語訓練を受けなくても成長します。
だから、「訓練をしなければ成長しない」ということではありません。
また、言語訓練を受ければ、必ず一般的な発達に追いつくというものでもありません。
それでも、専門家がその子の今の力を見極め、必要な学習の機会をつくっていくことで、その子が持っている力を発揮しやすくしたり、苦手な部分を補ったり、得意なところをさらに伸ばしたりすることはできると思っています。
そして、その積み重ねによって、
日常生活の困りごとが少し減る。
人に伝わる経験が増える。
人とのやり取りが楽しくなる。
できることが一つ増えて、それがまた次の「できた」につながっていく。
そうやって、その子自身の成長を後押ししていくことが、言語訓練の役割なのではないでしょうか。
子どもの成長を無理に早めるためではなく、その子が持っている力を見つけ、活かしながら、今とこれからの困りごとを少しでも減らしていく。
私はそんなことを大切にしながら、日々子どもたちと関わっています。
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