「宿題をやってほしいのに、なかなか始められない」
「やっと机に向かったと思ったら、すぐに別のことを始めてしまう」

そんなお悩みを持つご家庭は少なくありません。

今回は、私が数年間関わっている、ADHDの特性があるお子さんとのエピソードをご紹介したいと思います。

※プライバシー保護のため、個人が特定されない形でご紹介しています。

 

とにかく、宿題に集中できない

関わり始めた頃、このお子さんにとって宿題に取り組むことは、とても大変なことでした。

宿題を始めようとしても、まずじっとしていることが難しく、部屋の中を動き回ってしまいます。

椅子に座ることができても、手元にあるもので遊び始めたり、周囲から聞こえてくる音に注意が向いたり。

少し宿題を進めても、また別のことに注意がそれてしまう。

そのため、宿題を最後まで終わらせるには、かなりの時間が必要でした。

そこで、「どうすればこの子が取り組みやすくなるだろう?」と、その子の様子を見ながら、さまざまな方法を試してきました。

 

実際に試してきたこと

例えば、こんな方法です。

・始める時間を本人に決めてもらう
・宿題の前に体を動かす
・フィジェットトイを使いながら宿題をする
・足でゴムボールを踏みながら宿題をする
・ブラウンノイズを聞いてもらう
・静かな部屋に移動する
・仕切りで視覚刺激を少なくする
・終わった後の楽しみを用意する
・宿題をコピーして、大人も一緒にやる
・競争する
など

ここで大切なのは、「ADHDの子には、この方法が有効です」と言いたいわけではないということです。

同じように集中することが苦手なお子さんでも、その理由や、取り組みやすくなる条件は一人ひとり違います。

だからこそ、実際の様子を見ながら仮説を立て、試して、また様子を見る。

そうやって、その子に合う方法を探していきました。

 

この子に合っていたのは、「誰かが隣にいること」

いろいろ試していく中で、このお子さんにとって特に効果的だったのが、私が隣について一緒に取り組むことでした。

隣に誰かがいると、宿題に取り組み続けることができる。

これは、その子にとって大きな発見だったと思います。

そして私は、ただ宿題を終わらせるためだけに、この方法を続けていたわけではありません。

「こうすると、自分はできる」

そんな実感を積み重ねてもらうことも大切にしていました。

 

「先生、宿題見てください」

その関わりを続けていくうちに、少しずつ変化が現れました。

現在では、私から「宿題やろうか」と声をかけなくても、

「先生、宿題見てください」
「一緒についていてください」

と、自分から求められるようになってきました。

これは単に「宿題ができるようになった」という変化だけではありません。

自分がどんなときに困るのか。

そして、どうすれば自分は取り組みやすくなるのか。

それを少しずつ自分自身で捉えられるようになってきた結果だと考えています。

 

まずは「分かる」より、「できた」という実感から

自分の特性を理解し、自分に必要な対策を考えることは、とても大切です。

でも、小さなお子さんに最初から、

「あなたは注意がそれやすいから、こういう工夫が必要なんだよ」

と言葉で説明したからといって、それだけで自己理解につながるとは限りません。

このお子さんと関わり始めた頃も、自分の特性を論理的に振り返って、対策を考えていく段階ではありませんでした。

だからこそ、まず大人がその子に合いそうな方法を一緒に探し、

「これならできた」
「こうすると自分はやりやすい」

という体験と実感を積み重ねていく。

そして、成長とともに自分自身を振り返る力が育ってきたところで、それまでの体験を少しずつ「言葉」にしていく。

この順番も、とても大切なのだと改めて感じています。

 

宿題の先にあるもの

今回の支援の目的は、もちろん「宿題に取り組めるようになること」も一つです。

でも、その先にはもっと大切なことがあります。

これから成長していけば、宿題以外にも「自分にとってちょっと難しいこと」にたくさん出会います。

そんなとき、

自分は何に困っているのか。
どうすれば、うまくできるのか。
自分でできないときには、誰にどう頼ればいいのか。

それを自分自身で考えられるようになること。

今は「先生、一緒についていてください」と大人に援助を求めている段階ですが、これからは友達に「一緒に宿題やろう」と声をかけるなど、自分で環境を整える方法も増やしていけるかもしれません。

目の前の「宿題ができない」という困りごとだけを見るのではなく、その子が今どの段階にいて、その先にどんな力を育てていきたいのか。

「できる方法」を一緒に探し、その実感を、やがて自分自身を理解する力へつなげていく。

そんな長い視点を持ちながら、これからも一人ひとりのお子さんと関わっていきたいと思っています。

 


 

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